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⇔ Diá ⇔

iPhone写真、アナログ写真、随想、詩作、 覚書き など。

2. 任務

 

星明かりの下

黒い波

黒い海

銀の波頭。

白浜が続く。

浜辺には小さなペンションが一軒ポツンと建っている。

 

水平線上が白み始め、

瞬く間にオレンジ色に染まる。

光は闇を追いやりながらやわらかに広がっていく。

闇は薄まり群青になり

あとずさり

上へ上へと、はるかな高さを示して消えてゆく。

 

夜が明ける。

私は、海に張り出した、ミルク色をした岩場にいる。海に向かって立ち、太陽を眺めている。ここは断崖の麓で、地表より5mほど高みにあり、見晴らしはよい。

足下は直径2mくらいの岩のくぼみで、海の水をたたえて水たまりとなっている。

満ち潮の時にとどまった海水のはずだが、水は濃いピンク色をしている。周りにはたくさんの水たまりがあり、それぞれが濃いピンク色、薄いピンク色の水をたたえている。

 

私には任務がある。

日が一番高くなるまでに、これらの水たまりの水をすっかり海に戻すのである。 手には白いペンキを塗った大きなバケツを持っている。浜辺のペンションのオーナーに渡されたのである。

そのバケツを持って水に入る。

入ると、腰の周りに虹のような水紋ができる。乳白色がかった淡い色層の輪が次々と生まれ、広がっていく。

この虹も掬えるだろうか? 

急いでバケツを入れる。

水は虹色を保ったまま白いバケツに流れ込む。

 

虹を、捉えたぞ。

壊さないようにしなくちゃ。

バケツを両手で抱え、注意ぶかくピンク色の水たまりの中を歩む。

バケツの中の虹はかすかに震えているが崩れていない。

 

海側のふちにたどり着いた。

海に向けてバケツをそっと傾ける。

ひとすじの水が細くうねりながら落ちてゆく。

その水の周りに、うねりのリズムに合わせるかのように、いくつもの小さな虹の輪が生じる。

七色の気体は、湯気のように、少し広がり、上にのぼっては消えていく。それを真上から凝視する。

おお。これは美しい。

夢中になる。

虹色の水紋を、

すくっては海に落とし、

すくっては海に落とし、

すくっては海に落とし。

注ぐ速度を上げると、

いくつもの虹が重なり合いながら、ゆらゆらと上へ向かう。

 

 

そのうちに小さな虹たちは、

野バラの香りを放つようになる。

そして最後に淡いピンク色になって、

周辺の空気の色を少しづつ染めはじめる。

 

はっとして空を見る。

日はすっかり高くなっていた。