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5. メロンパン犬

 

夏空のもと

小麦畑の道を 歩いている。

 

青い空には形のよい雲が ぷかりぷかりと浮かんでいる。

そよ風に 緑の穂がさらさらと揺れている。

ときおり 小鳥のさえずりが聞こえてくる。

見渡す限り 人もいなければ 人の作ったものは何もない。

 

どれくらい 歩いただろう。

 

ふと先を見ると

10mほど向こうの道ばたに

薄緑色のむく犬が 静かに立っている。

 

姿からするとチャウチャウのように思われる。

こんなところで 何をしているのだろう。

 

1mほどまで 近寄ってみる。

ピクリとも動かない。

 

犬を覆う薄緑色の表面は どうも体毛ではなく 

メロンパンのような サクサクとしたクッキー生地のようである。

真横にかがんで よくよく 見る。

 

う〜む どう見てもメロンパンだ。

でも まるで生きているよう。

 

そっと首筋をなでると「アウ」となく。

 

わ、生きてた。

これは相方に見せなくては。

 

 

犬を小脇に抱え、相方が寛いでいるはずの浜辺に駆ける。

と 突然風向きが変わり、どこからともなくやってきた薄雲が あっという間に空いっぱいに広がっていく。

 

もうすぐ浜辺だという時、 メロンパン犬に何かが起こった。

おそるおそる腕の下を見る。

そこにいたのは メロンパン犬ではなく

大きなタコの足だった。

それもドス赤い 茹でダコの足 だ。

 

私には なんとなく原因が分かっている。

潮風のせいだ。

 

・・・間に合わなかった。

走るのをやめ 浜辺に立つ。

身体が 濡れた砂袋のように重い。

こんどは ゆっくりと ひきずるように歩きながら 沖を見やると

 

遠くの波間に 

小船ほどの大きさはありそうな 

大きなタコが浮かんでいる。

タコは波に身をまかせ ゆらり ゆら〜りと寄せてくる。

 

空は すっぽりと暗雲に覆われ

風が強まり 波足が高くなる

 

タコは波間に見え隠れしながらあれよあれよという間に浜辺にたどり着き

スルスルと私の方に這い進み 2mほどの間をとって止まると

私が抱えている元メロンパン犬 

もとい ゆで蛸の足のぶつ切りに そっと一本の足を伸ばして触れる。

ゆで蛸の足は するりと大蛸の足に吸い込まれる。

大蛸はそれを見届けると またスルスルと海に這い戻り ふたたび波間に見え隠れしながら、遥か彼方に見えなくなった。

 

 

夢だったのだろうか。

ゆっくりと周りを見回す。

遠くの岬の灯台が 時々チカリとまたたいては淡い光線を雲間に投げかけている。

 

波打ち際のデッキチェアに 昼寝をしている相方の姿をみとめる。

高鼾だ。

彼はメロンパン犬のことも、大蛸のことも 何も知らないのだ。

 

潮風が冷たい。

引き上げ時だ。

メロンパン犬よ さようなら