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iPhone写真、アナログ写真、随想、詩作、 覚書き など。

6. ありんこ

春の温かい一日 昼下がりのJR新宿でのできごと。

山手線の階段を上っていくと

ホームの先のほうで

黒ずんでどっしりとした四角い物体が

まるで倒れる寸前のコマのように

たよりなく ゆ〜らゆ〜らと旋回しながら揺れている。

 

近づくと

それは

底面のたったひとつの角で立っている

とても重たそうな民芸箪笥。

 

ゆ〜らゆ〜ら。

ゆ〜らゆ〜ら。

 

たおれそうで

たおれない。

上から吊り下げられているようすも

ない。

 

視線を下に移すと

そこには

一匹のアリが

箪笥の角をくわえて

小さくも たくましい上半身でバランスをとりながら

2本の下肢で

必死で踏ん張っているではないか。

 

なんて すごい顎の力だ。

 

アリの顎はこんなに強いものだったのか。

 

それにしても なぜ簞笥を?

大きな食べ物と思って 仲間のために運ぼうとしているのか?

そうならば あまりにも健気だ。

食べ物でないことを

伝えるほうがよいのか。

いや もしかしたら このアリには

カラスのように

宝物を収集する習慣があるのかもしれない。

でも この箪笥のなにに惹かれたのか。

巣穴に 入るのだろうか。

 

アリはその小さなアゴで簞笥を支えたまま 行儀良く きちんと列車待ちの列に並んでいる。

簞笥は相変わらずゆ〜らゆ〜らと旋回している。

人々は 新聞や雑誌や テキストメッセージを読んだり イヤホンで音楽を聴いたり この揺れる簞笥が列にいることを 全く気にしていないようだ。

 

電車がホームに滑り込む。

 

ドアが開く。

 

アリは簞笥をくわえたまま よたよたと電車に乗りこむ。

 

「ドアが閉まります。ご注意ください。

ドアが閉まります。ご注意ください。」

アナウンスが繰りかえされ

ドアが閉まる。

 

電車は行ってしまった。

 

私は電車が見えなくなるまで、アリを見送った。

 

もしアリに そんな習性があるのなら、

世の中の怪事件 難事件にはアリが関わっている可能性を考えたほうがよいかもしれない。

 

これからは アリ一匹通さない防犯対策が必要とされることであろう

 

などとつらつら考えていたら目が覚めた。