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⇔ Diá ⇔

iPhone写真、アナログ写真、随想、詩作、 覚書き など。

気球 (1)

海の近くの草原に、3人兄弟とその両親と、ぶち模様の子犬が暮らしていた。 

冒険心旺盛な18歳の長女は、小さな頃から空を飛ぶのが夢だった。 
そんな彼女はある日、海岸で直径1mほどの大きな籠を見つけ、それで気球を作ることを思い立った。有り合わせの布を接ぎはぎして気球を作り、加熱器を調達し、それらをロープで籠に結わえた。 
すべての作業を毎日少しづつ秘密裡に進めた。そしてある気持ちよく晴れた日の午後、家の裏の草原で実験飛行を行うことにした。 

だが重さを調整するための砂袋が足りなかったので、10歳の弟と4歳の妹をロープで気球の外側に繋いだ。 

初飛行は大成功。気球は弟と妹をぶら下げて上空50mほどまで上昇し、そこで安定して浮かんでいた。
ところが、いたずら盛りの弟が妹のロープを籠から外し、どこからか飛んできた巨大な白い風船に妹を結わえた。 

妹をぶら下げた白い風船は速度を落としてゆっくり上昇し続け、 
弟だけをぶら下げた姉の乗った気球もまた上昇し始めた。 

二つははじめゆっくりと同じ方向に向かっていたが、そのうち気球だけが速度を上げて、斜め前方にのぼり始めた。 

妹はなんとか気球に追いつこうと、空の中で走ってみたり漕いでみたり泳いでみたが、全ては虚しかった。
途方に暮れて周りを見渡すと、彼方の空に小さな黒い二つの点が浮かんでいた。小型飛行機だった。妹は飛行機に向かって、姉達の気球を何度も指し示しながらバタバタと手を大きく振って合図を送った。 

一機のプロペラ機が妹に気づいて、うまい具合に尾翼に風船のロープを引っ掛けると、そのまま無事に地上に降りた。妹は地に足がついた瞬間に、もう姉達とは会うことができないだろう、と腹をくくった。 


その頃、姉はただひたすら空中の旅を楽しんでいた。街がどんどん小さくなり、コウノトリの群れと挨拶をかわし、綿菓子のようにふわふわな千切れ雲の合間を抜けた。なんてファンタスティックな旅なんだ。 

遥か向こうのゆるいカーブを描いた水平線の上では真っ赤に膨らんだ太陽が今にも沈もうとしていた。太陽は炎色に輝く空間を引連れて地平線の向こうに見えなくなった。幕は下ろされ、ほのかなバラ色に薄まった昼の上澄みが残った。闇が青墨の如くに広がり始め、バラ色をすっかりその中に溶かし込むと、最後に無数の星々が賑やかに天を覆った。