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⇔ Diá ⇔

iPhone写真、アナログ写真、随想、詩作、 覚書き など。

気球(後半)



こちらからの続き



満天の星空に宙吊りの状態で、弟は絶望的な後悔に震えた。「僕はなんてことをしてしまったんだろう。」 

どれくらいの時間が経ったのだろう? 
リズミカルに震える無数の星々の中で、弟は次第に落ち着きを取り戻していた。すべての星達が瞬きで自分を慰めてくれているかのように感じ、それらに親密さを感じて自分は宇宙に繋がっていて、いつもその意志に従って行動しているんだ、という確かな感覚に満たされた。それは地上では味わった事のない、「感覚の不思議な明晰さ」だった。 
弟は、これでよかったという思いを抱くようになった。 
僕はきっと、家を、街を、国を出なくてはならなかったんだ。 

3日がたち、気球は淡いベージュ色の浜辺に降りた。かなり南に来たようだ。海岸には椰子がまばらに混じった大きな森が迫っていた。食べ物も豊富にありそうだ。森の入り口には二つの大岩が立っていて、岩に挟まれた空間は、二人が寝起きするのに十分な広さがある。そこで、二人は岩の上に椰子の葉っぱや草で屋根を吹き、それらで壁も作って簡単な家を作った。そして魚を獲ったり海藻や果物や野草を集めたりして食べ、夜にはたき火を炊いて、7年間仲良く暮らした。 

ある日、すっかり成長した弟を見て、姉は思った。 
「そろそろ、家に帰らなくちゃ。」 
二人はひさしぶりに気球を上げて警察を探し、行方不明の二人だと名乗りを上げて、無事に元の家に戻って来た。 

庭で遊んでいたぶち犬が、 彼らを見つけて飛びついてきた。 

弟は家に入ると、彼の育った家が記憶よりずっと小さいことにとまどった。そしてぶち犬と背比べをし、柱に背丈の印をつけて、7年間のお互いの成長を比べ合った。 

父が帰って来た。弟は、7年前の上空のできごと ー妹のロープを気球から外して風船にくくりつけたことー について何か言われるかと身を固くしていたが、父はただ一言、「楽しかったか」と言っただけだった。 

妹は何も話していないのだろうか。 

長女は久しぶりに多くの人間の視線にさらされ、戸惑っている様子だった。遊びに来ていた叔母や従兄弟、近所の人達のたくさんの質問にぎこちない面持ちで言葉少なに答えながら、帰って来たことを後悔していた。 

翌日、新聞に7年間行方不明だった二人のことが掲載され、姉は自分が女性初の気球搭乗者だったことを知った。どうして人々はどうでもよいことに大騒ぎするのかしら?きっとこれからも、たくさんの人達の質問攻めに合うのだろう。 

人に倦んだ姉は、また密かに気球を組み立てて海を越えてしまった。 

終:2008年の夢記録)