11 05 2016 San Lorenzo - Silver City:荒野の中の創造楽園 ニューメキシコ③
青いSUVから降りてきたのは半分白髪、半分無毛の男性だった。
ピンホールカメラの大御所アーティストである。奥さんも同業で、お二人で長年制作、教育、普及活動を行っている。
ピンホールカメラは、針穴を使うレンズレスカメラである。いちおう簡単に説明する。
空間に小さな穴を通して入った光は、外の情報(像)を逆さまに内部に投影する。よって、部屋、スーツケース、お菓子の箱、壺、口の中、何でも中を暗くして映像記録媒体を置いて、適切に光を通す穴を開ければ、カメラにすることができる。
ルネッサンス期には画家たちがこの現象を部屋に実現して風景描写に利用しており、その装置はカメラオブスクラ(暗い部屋)と呼ばれるが、今もこれを作品作りに使う人がけっこういるし、こちらでは展覧会場なんかでお目にかかったりもする。(Wikipediaで図がすぐに出てきます)
もちろん、仕組みが原始的で簡単なだけに、レンズやカメラ器械のような利便性は無い。
明確な像を得たければ、ミリメートル以下で針穴の直径、形、薄さを微細に調整し、結像面までの距離を綿密に設計してカメラを作る。その上で記録媒体に合った適切な露光量を求めて計測し、撮影する。だがいい加減さを活かすのも大いにありである。
閑古鳥の巣であるこのブログだが、万が一彼らに興味持った人が来てくれた時のため、彼らの主宰するPinhole Resourceは以下。
原理の話は無いが道具や本が充実している。
https://www.pinholeresource.com
さて。
彼らのSUVでガタゴト道をくねくね走り、谷底の家に到着する。
40年近く前にエリック(夫)が一人で増築しながら作ったという家は、木造とニューメキシコ伝統の厚い土壁(アドービ)造りを掛け合わせた複雑な構造で、家そのものがフンデルトヴァッサーもびっくりのアート作品であった。
どこからどう述べたら良いのか。壁、床、オブジェ、階段や手摺り、隅々の詳細が独特で述べ尽くすことはできないので、いっそ書くのをやめる。
但し、たいへん居心地が良い。
最初、アールヌーボーの窓から陽光が程よく入り込む大きなダイニングであれやこれやと話す。
スタジオに移り、作品やピンホールカメラや出版物や作品のモチーフを鑑賞。
彼らの作品を見ながらの使ったピンホールカメラと撮影背景の説明が面白い。19世紀のフランスの心臓模型をebayで買って、中に乾燥させた豆の鞘をカプセルのようにはめ込んで作ったカメラ、自分たちの石膏マスクを取って目にピンホールを開けて、二つのマスクを並べて後ろに巨大な印画紙を立ててカメラとし、一人がそれを垂直に抑えて一人がシャッターを下ろして撮影、云々。
異世界な家と、無駄と思える凝った手法とカメラ。
彼らがピンホールに夢中になっていた理由がよく分かった。
ピカソが描き続けたようなもので、彼等にとって、現実離れしたビジョンを可視化することが息をすることなのだ。空間や物体を作り続ける。それを記録するカメラと言う空間作り。息を吸って吐くように、どちらも欠かせない必須2本立て構成なのだ。
私も作品を少々見てもらう。
暗室を使う写真家のハウスシッターを探していたようで、
暗室を使ってこの家のお守りをしてくれないか、と暗室を見せてくださる。
十分なスペースと器械が備わった、素晴らしい暗室である。
庭に出る。草を踏み分け、巻貝型をしたアドービのカメラオブスクラの中に案内される。
スペインのアーティストに作ってもらったそう。
アンティークの木の扉を開けるとまずガラガラヘビがいないか確認。中は蒸し暑く、真っ暗闇のサウナのようだ。しばらくすると、壁に逆さまの山と流れる雲の像が見え始める。
分かりにくいけど写真を撮った。実際はもっと綺麗な青空が見える。
庭の反対側に出て、柵の中のエミューを見る。
迷い込んで来たのを飼い始めたという。
エミューは撮れなかったが庭の光景を。
その後また家に戻り、薄暗い別室にて彼等の「取って置き」コレクションを見せてもらう。
ピンホールカメラの本を一冊買ったが、「取って置きコレクション」を纏めたもっと高価な本を一冊下さった。
2時間くらいのつもりが、4時間経っていた。日が傾きかけている。
ぜひ泊まって行ってと勧めてくださった。残念だが今回は辞退。
来た道を逆方向に走って40分ほどのSilver Cityという町にホテルを取ってあった。彼等推薦のJalisco Cafeで夕食を取って宿に入る。
Jalisco Cafeは広々とした店内が気持ちよく、どれも本格的に辛い。旨い。
食べたものは別記事に載せるつもり。
早めにベッドに入ったが、この夜は遂に一睡も出来なかった。
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