夜の客人(夢)
たいした内容でもないけれど夢の記録。
人々がすっかり寝静まった暗い夜。小学生の頃一時的に住んだことのある小さな簡易住宅が見える。私は今ここで一人暮らしている。
家の近くまで来た時、背が高くがっしりとした男性のシルエットが私の家のテラスの窓を開けようとしているのを見る。
数メートルも離れていないのに、暗くて男性の姿を見ることはできない。
よほど強い力なのだろう、小さな家がガタガタと揺れている。
家の玄関のほうに回ると、小柄な女性がドアを開けようとしている。
ドアには鍵がかかっている。
しばらく様子をみていたが、二人とも諦める気配はない。
どうしたもんか。取り敢えず声を掛けてみる。
「何か御用ですか? 窓もドアも鍵がかかっているので、開きませんよ。」
二人は一瞬手を止めてちらりとこちらを見たが、諦める気配はない。
強盗だろうか。
「おやめにならないのなら、警察を呼びましょうか。」
二人の動きがピタリと止まり、女性がこちらを向いて答える。
「いえ、この男性が、どうしてもあなたと話がしたいというもので、人目を忍んでやってきたのです。」
その時、雲間からうっすらと月光が差して、男性の姿を照らした。
女装者だった。
白粉を濃く塗った真っ白な顔に奇抜なアイライン、真っ赤にべったり塗られた口紅。ボディコンのミニワンピにピンヒール。昔見た映画「ヘドウィグ&アングリーインチ」のヘドウィグ風というか。真っ直ぐで長い脚。
多分、知り合いではない。
「私はあなたを知らないと思うのですが、どうして私と話がしたいのですか?」
男性の代わりに女性が答える。
「あなたはゲイの人々に対する理解がおありですからね。」
そして付け加える。
「彼、こう見えてもシャイなんです。」
なんだか奇抜な話だが、どうやら他意はなさそうである。
私は古い鍵穴に鍵を突っ込んで回し、ドアを開ける。
「どうぞ、お入りください」
ドアを入ってすぐは広い土間になっていて、
客人に靴を脱いでもらう必要がないよう接客用のソファーを置いてある。
「どうぞ、お掛けください。」
私は靴を脱いで奥に入り、押入れの中を通って台所に湯を沸かしに行く。
つい今しがた男性がこじ開けようとしていたテラスの窓の下にはハーブといく種類かの観葉植物を植えたプランターがずらりと並んでいる。
お茶を用意して戻ると、男性は長い足をきちんと揃えて、背中をやや丸め気味に、落ち着かない様子でソファーに掛けている。女性は少しホッとしたような表情である。
お茶を渡しながら改めて挨拶をする。
「どちらからかは存じませんが、遥々ようこそおいでくださいました。むさ苦しい場所ですが、どうかお寛ぎください。」
男性は湯のみに片手を添えてそっと口に運び、美しい仕草でお茶を一口飲んだ。
そして小さく息をついた。
雲が晴れ、ソファの後ろの窓から差す月光が心地よい明るさに土間を照らしている。家の灯りをつける必要はない。
さあどんな話が出てくるのか、
・・・・というところで目が覚めてしまった。